赤池「次に第二番目の私自身が共同体としての国家の危機の懸念は、 このあと審議をされる予定であります国籍法の改正についてであります。 国籍と云うのはご承知の通りまさに国家共同体の構成員を決める大切なルールであります。 それが一般の国民の中に崩れつつあるのではないかと云う懸念であります。 本年六月四日に最高裁判決が指摘した違憲条件を解消するために今回法案を提出されるということであります。 しかしそれに先立ってこの数日間、今日の朝も物凄いファックスと電話、電子メールのですね、 全てが批判であります。反対の意見であります。 内容を見てみますと組織的にですね、同じような内容もある反面ですね、自らの言葉でですね、 今回の国籍法改正に対して大変な心配、危惧を抱かれている国民の方が全国各地、老若男女、 そんな反対の声を寄せていただいているということであります。 そういう面ではその疑念にしっかり国会として答えていかなければいけないということも感じております。 そういう面でその中の代表的な疑念、質問を三つそれぞれ法務当局の見解をお伺いしたいと思います。 一つは国籍取得届けの虚偽届けについての刑罰が今回新設をしようとしているわけでありますが、 あまりにも軽すぎないではないか、軽すぎるのではないかという懸念であります。 二つ目は偽装認知を防止するためにDNA鑑定の導入を必ず入れるべきではないかという意見であります。 三つ目は偽装結婚も横行していると言われている中で、偽装認知を防止するためにどのような形で実効ある対策を打とうと考えているのか。 この三点、法務当局からの見解をお尋ねいたします」 倉吉「赤池議員から大変重いご指摘を頂きました。 今回の改正、最高裁の判決が出たと。 それに伴う違憲状態を解消するための改正ではございますが、 ただいまご指摘のような様々なご批判等々の文書が先生方の所にも来ているという事も私どもは承知しております。 出来るだけその様なご懸念、特に委員のおっしゃっていた国家のあり方に関わるということを十分に踏まえつつですね、 その様なご懸念の無いように私どもは精一杯つとめてまいりたいと思っております。 簡単に今ただいまご指摘のありました三点について申し上げます。 まず罰則の点でございます。 これは、虚偽の国籍取得届けをされたという前提でお話しであると思いますので(笑) それでされたと、害されるのは法務局等の事務の適性や信頼という事になります。 しかし「なんだ役所の事務が害されるだけか」ということになろうかとは思いますけれども、 そうは申しましてもこの国籍取得に関する事案というのは、日本国の構成員である日本国民の資格、 これを適切に認定するための重要な責務であります。 そこで、類似の規定を見てみました。 例えば戸籍の記載または記録を要しない事項について虚偽の届け出をするという戸籍法百三十二条という規定がございます。 あるいは外国人登録法の関係で申請の関係で様々な虚偽の申請をするということが起こりうる。 これについて定めている外国人登録法十八条というのがございますが、 これらの規定の法定刑がいずれも一年以下の懲役、または二十万円以下の罰金でございます。 そこでこれに合わせまして今回も一年以下の懲役、または二十万円以下の罰金としたところでありまして、 これ自体は適切であると考えています。 一つ付け加えさせて頂きますが、よく誤解されやすいのがいわゆる偽装認知、虚偽の認知をして届け出をしたときは、 この一年以下だけなのかと、いう風に誤解されてる向きがあると、いうことでございます。 この一連の届け出を致しますには、まず認知届というのを市町村に致します。父親が致します。 そうするとそれについて父親の身分事項欄、戸籍の身分事項欄に、まるまるどれどれという子を認知したというのが載るわけでございます。 それからその戸籍の証明書を持って法務局にまいります。 今回新設するこの罰則にあたるところですが、国籍取得届けというのをいたします。 法務局ではそこでその国籍があるということを証明書を出しますと、それを持って今度三回目、また市町村にまいります。 そこの市町村で新たに届け出をいたしますと、今度はその子が日本人でなるということになりますので、 その子供の戸籍を新たに作る。つまり三段階あるわけでございます。 この第一の段階と第三の段階で認知が実は嘘なのに、親子関係無いのに、 虚偽の認知をしたということで届け出をしたということになりますと、 これは公正証書原本等不実記載、戸籍に載りますので広く世の中を騙すことになると、こういうことでございます。 この罪名で五年以下の懲役、または二十万円以下の罰金となります。 それぞれ個々の事案で恐らくこの三つまで行ってしまうというのが多いだろうと思いますが、 途中で発覚して途中でとどまったとしても、それぞれの罰が科されるということになるので、 適正な科刑ができると、こう考えているわけであります。 それからDNA鑑定の話がございました。 偽装認知のためにDNA鑑定すべきじゃないかと、これもよく分かる議論なんですが、 実は議員の皆様方ご承知と思いますが、日本の民法の親子関係を決める手続きと言うのは認知で決まる。 そのときにDNA鑑定を出せなんていうことは言わないわけでございます。 ここに家族の情愛で自分の子供だと認知したと言うのだったら、それでとりあえずの手続きを進めて、 後でおかしなことがあったら親子関係不存在とかそういうのでひっくり返していく。 あるいは嫡出否認なんかでひっくり返していくと。こういう法制度。これが日本の独特の制度でございます。 それを踏まえますとDNA鑑定を最初の認知の段階で持ち込むことになりますと、 やはり親子関係法制全体に大きな影響を及ぼすなど、これを私どもとしては考えざるを得ません。 更にいくつか問題はございまして、一つはDNA鑑定で一番難しいのはですね、検体のすり替えが無いかということであります。 すり返られた検体で来られたらみんな騙されてしまいますから。 それから、現在の科学技術水準に合ったきちんとした鑑定が出来ているか、そこを判断しなければなりません。 しかしその判断を迫られるのは最初の認知届を出される市区町村の窓口。 あるいはこの国籍取得届を出される法務局であります。 そういうところでそんな判断はできないという、ここが大きな問題で一つございます。 それから鑑定には相当の費用がかかります。 そうするとこの費用の負担能力の無い人にはどうしても手立てが無い。 それから外国国籍の子を認知する機会の無いDNA鑑定を義務付けるとすれば、 それは外国人に対する不当な差別ではないかと、こう言われる可能性もあると。 いうことで、DNA鑑定の採用については消極に考えております。 それじゃあ対策できるのか、というのが先生の一番おっしゃりたいことだと思うんですが、申し訳ありません長くなって。 法務局では最初に届け出が、国籍取得の届け出がまいります。 これには届出人が出頭することが必要でありまして、また必要な戸籍などの書類を出していただきます。 そのときに当然に必要なことを聞きます。 お父さんとどこで知り合ったのかとか、どこでどういう過程で子供ができたのかと、 いうようなことは聞きますし、その関係で必要な書類も確認をいたします。 場合によっては、というか殆ど必然的だと思うんですが、その父親についての協力も求めたい、こう思っております。 その子供が懐胎した時期に同じ国に滞在していなかったんじゃないかとか、そういう疑義が生じたと、 いうことになれば、偽装認知の疑いもあろうかということになりますので、関係機関とも連絡を密にして更なる確認を続けると。 いうことで不正の除去につとめてまいりたいと。こう思っております」 赤池「今後の具体的な審議にそれぞれ更に突っ込んだ議論をお願いしたいと思います。 今回国籍法が導入されたきっかけというのは先ほど言いましたように、最高裁の第三法廷の判決であります。 当初は最高裁の判決だからすぐにこれは法改正せざるを得ないと私自身も思っておりました。 しかしこれだけ国民多数の反対意見に接して改めて最高裁の判決文を読みました。 そこで驚いたことがあります。 十五名の最高裁判決で多数意見は違憲の理由の根拠として「社会経済の環境の変化」とか「夫婦の家族生活、親子関係の意識の多様化」 「非嫡出子の割合の増加」「社会通念、社会状況が変化している」「国際化だ」「諸外国の動向だ」「国際条約、規約」 を理由に挙げているわけです。 一見もっともらしいわけでありますが、しかし最高裁の三名の少数反対意見はその一つ一つに関して統計データを使って、 日本人の家族生活親子関係の意識の変化はある程度あるにしても、国民一般の意識変化として大きな変化は無いと。 例えば非嫡出子は二十年間で一パーセントから一.九パーセントしか増加してないと。 日本人を父、外国人を母とする数も五千人から一万三千人しか増えてないという。 西欧の三十パーセントや、少ない国でも十パーセントが非嫡出子である国とは違うんだ、 ということを明確に述べているということであります。 私は国民常識は最高裁の多数意見よりも少数意見にあると思わざるを得ませんでありました。 最高裁判決でも間違っているものは間違っていると、言わざるを得ないというのが率直な感想であります。 最高裁、先ほど裁判員の中で国民に身近で頼りがいがある司法を実現をしたいということを目指していると思いますが、 そういう面では最高裁こそ国民の常識から外れて、裁判員制度が最高裁に必要ではないかと思わざるを得ないわけであります。 国籍法改正は今回慎重に、慎重に、期すべきであるということを申し伝えたいと思います」